普段、格闘技にまったく興味がない人と試合を観戦したりすると、時にハッとさせられるようなことがある。格闘技ファンにとっては当たり前すぎて今まで考えたこともなかったようなことを何の衒いもなく指摘されることがあるのだ。
例えば以前、某出版社に勤務する友人の女性編集者と女子総合格闘技の試合を観に行ったときのこと。彼女はプロレスとMMAの区別もつかないようないわゆる初心者女史。魔娑斗のことをプロレスラーだと思い込んでいるぐらいのレベルである。
僕はそんな彼女を「ジョシカクおもしろいよ!」と半ば強制的に後楽園ホールに連れて行ったのだが、観戦後、彼女が真っ先に言い放った感想はこうだった。
「ラウンドガールって必要なの?」
うーん。考えたことなかった。
まあ、必要か必要じゃないかって言われたら必要ないんだけど、そこはほら、華っていうか潤いっていうか、バイオレンスの中にはそういうのもないとね。
「しかもなんであんなチャラチャラしたギャルばっかなの? ストイックに頑張ってる格闘家たちに失礼じゃん。神聖なプロのリングにあがりたくてもあがれない女の子だっていっぱいいるのにあんなギャルたちを簡単にあげちゃっていいの?」
いや、そう言われてみれば確かにそうなんだけど、ラウンドガールは別に闘うわけじゃないし、女子選手もそんなに気にしてないと思うよ。格闘技にラウンドガールなんてみんな当たり前の光景だと思ってるから。
「あれをおかしいって思わないのはやっぱ日本の情操教育に問題があるからよ」
じょ、情操教育っすか? そこまで飛躍します? たかだかラウンドガールぐらいで、そんなフェミニスト団体みたいなこと言うのは勘弁してくださいよ。
しかし、彼女の目にはどうもラウンドガールが不可思議に映ったようだ。
「チャラチャラしたギャル」というのは彼女の偏見かもしれないが、とにかく選び抜かれた女性アスリートだけが足を踏み入れることができる神聖な領域というイメージをリングに抱いたのである。
だから血反吐を吐くような練習をすることもなく、普通の女の子として恋愛やお洒落に(たぶん)没頭しているであろうギャルが同じリングに立つのは許せない。しかもヒールで立つとはなにごとだ。……と、かような理屈である。
さらに彼女はこんな提案もしてきた。
「ってかさ、女子の格闘技なんだからラウンドボーイにすればいいじゃん」
彼女曰く、異性だったらまだ納得できるとのこと。むしろ強くてカッコいい女性を陰で支える美形の男子という構図は女性社会のさらなる発展の鍵となる。ラウンドボーイ導入を良い機会として女子ゴルフは男子キャディ、女子ソフトボールは男子マネージャーといった新たな献身愛の形を示していくのはどうか、と。
なるほど、今になって冷静に考えればあながち暴論でもない気がする。
僕はいつのまにか献身愛を女性特有の快感だと思い込んでいたのか。宝塚ファンの女性の多くが「あなたのお世話をさせてください」とファンレターに綴るように、いくら男女平等が叫ばれる時代になろうとも女性の本能は極めて儒教的だと。
しかし、そのときの僕はそんなに冷静じゃなかった。
ラウンドボーイを提案した彼女に間髪入れずこう言ったのだ。
「イヤだ! そこは女の子がいい!!」
だって、そうじゃん。理屈じゃないでしょ、あなた。
一体どこのモノ好きがバイオレンスな最中に男の笑顔なんぞを見たい?
格闘技はラウンドガールでいいのよ。だって可愛いんだもん。パンツ見えたりするしさ。あれは献身愛とかそんな大それたもんじゃないの。戦渦に咲く花なのよ。
男心はとっても複雑なのだ。
しかし、彼女のような初心者と格闘技を観戦するのは意外に楽しい。
「(三角締めを見て)あれ何が痛いの? あんま痛そうに見えないよ?」
うーん、言われてみれば初心者には痛さが伝わりにくい技だなあ。
「(袈裟固めを見て)あれ何で逃げれないの? バタバタしたら逃げれそうじゃん」
いやいや柔道の有段者に袈裟固めなんぞ極められたら痛いし苦しいし呼吸もできないほどなんだよ? などと言っても彼女にわかるわけないか……。
すると、とある試合中、バッティングで片方の女子の額から血が流れた。
「きゃああ! 血よ、血! かわいそうじゃん、試合止めないと!!」
途端に慌てふためくのは何とも女子らしいリアクションである。
「いや、あれはバッティングだからそんなにダメージないと思うよ」
僕は冷静に説明しながら彼女の様子を嬉々として伺う。
「バッティングって何よ!? 女の子が血を流してるっていうのに野球の話なんかしないで! そんなに野球が観たいならドームの方に行けばいいじゃない!」
こういう言葉に出会うから初心者との格闘技観戦は楽しいのだ。
<山田隆道の近況>
◇隔週水曜日発売の雑誌「ベースボールタイムズ」にて山田隆道著作の小説『赤ラークとダルマのウィスキー』を連載しています。野球をテーマにした小説で、題字をプロ野球ニュースのキャスターとして著名な佐々木信也さんに書いていただきました。次回は11月26日水曜日発売です。宜しくお願いします。
◇12月10日に山田隆道著作の『芸能界超ウルトラおバカ名鑑』という単行本がぶんか社さんより発売されます。芸能人100人のおバカ伝説を愛情たっぷりにいじり倒し、尚且つおバカにまつわるエッセイが10本収められています。しかも、中にはこの連載から抜粋し、大幅に加筆修正したおバカエッセイも数本収録!
宜しくお願いします。
◇詳しくはオフィシャルブログで!
http://blog.livedoor.jp/aoi_yamataka/









