都内某駅近くにある喫茶室「ルノアール」は今やほとんど僕の仕事場になっている。
ご存知の方もいると思うが、ルノアールは電源が使い放題で僕のようにノートPCを使って仕事する人間にとっては非常に有難い喫茶店。おまけにコーヒー1杯で粘りまくっても店員さんはまったく嫌な顔をしないし、2時間ぐらい経過したら僕が何も言っていないのに勝手に温かいお茶をサービスで出してくれたりする。従って、執筆仕事や長時間の打ち合わせなどに向いており、なにげに一部に人気が高い喫茶店なのである。
そんなルノアールだから当然の如く、僕以外にも色々な人が利用している。
ネタ合わせをしている若手芸人や不思議な絵を描いているイラストレーター、キャバクラで働くかどうか悩んでいる2人組のグラビアアイドル、何やら物騒な商談をしているどう見てもカタギじゃない男たち、不穏な会話をしている『愛する二人別れる二人』みたいな夫婦、平凡なOLに化粧品を売りつけているセールスマン……。
先日なんか僕の隣で髭男爵が普通の服装で将来のことを話し合っていたし、AKB48の誰かがスタッフらしき人と打ち合わせしていた。僕はAKB48の誰一人として顔がわからないのだが、会話から何度も「AKB」が漏れ聞えてくるので多分メンバーの一人なのだろう。めちゃくちゃ可愛かったことだけは確かだ。
とにかくルノアールに頻繁に居座っていると、普段は中々会えないような一風変わった人たちの一風変わった会話によく出会える。極端に言えば非日常的なリアル人間ドラマを日常の中で楽しむことができるのだ。
そんなルノアール劇場で、こないだ僕の隣に座ったのは2人組のプロレスラーだ。
や、正直、顔を見ても知らない人たちだったから、あくまでも会話の内容と体格から勝手に察してプロレスラーだと断定したに過ぎないが、新木場1stRINGやバトルスフィア東京など何ともコアなプロレス会場の名前がバンバン飛び交っていたため、ほぼ間違いないだろう。しかも、多分、インディー系だと思う。
彼らはずっと悩んでいた。でかい体に似合わず、オレンジジュースとグレープフルーツジュースを小さなストローでチューチュー飲みながら、延々3時間以上も「今後のプロレスラーとしてのキャラクター」について熱い議論を交わしていた。どうやらオレンジジュースは「ヒールのマスクマン」というキャラで頑張っているようなのだが、グレープフルーツジュースはいまだにしっくりくるキャラが見つかっていないみたいなのだ。
しかし、彼らの団体にはヒールもベビーもオカマもマスクもデブもハゲも既に存在しており、新たに入り込める隙間がない。グレープフルーツは完全に途方に暮れていた。
「思い切ってめちゃくちゃダイエットしてガリガリの弱いキャラってどうっすか?」
「レフェリーをそういうキャラにしてるからかぶっちゃうよ」
と、まあ、こんな感じ。グレープフルーツが色々とアイデアを出すのだが、オレンジがことごとく却下していき、グレープフルーツをますます追い込んでいるのだ。
すると、長い沈黙の後、オレンジが助け舟を出した。
「強いプロレスラーでいいんじゃね?」
「あ……」
「考えたら、うちにはそういうのいなくね?」
「そう言えば、そうっすね!」
グレープフルーツはオレンジの発案に乗った。そして、スッキリしたような表情で再び会話が弾みだした。どうやらグレープフルーツの霧がかった視界は「強いプロレスラーを目指す」という新たなキャラによって晴れ渡ったようだ。
けど、「強いプロレスラー」って当たり前のことだよね?
ってか、散々、新たなキャラを考えた挙句、辿りついたのが「強いキャラ」って、それって完全に発想が一周してるよね?
ダンス甲子園やお笑い甲子園、K1甲子園などに続く新しい企画を考えた結果、考えに考えすぎて、思わず「野球甲子園」って言っちゃったのと一緒である。そう言えば、知り合いの板前さんが秋刀魚を使った新しい創作料理を考えて、最終的に「生で食べる!」という普通の刺身に辿りついていたなあ……。
何事も考えすぎは良くないのだ。
次回更新は、10月3日(金)です!お楽しみに!!









