もう随分前になるが、あの佐山サトルさんと食事したことがある。仕事の打ち合わせを兼ねての食事で、佐山さんと僕、あと数人のスタッフさんがいたと思う。店は赤坂の無国籍料理だったかな? 実はあまり詳しく覚えていない。なぜなら、その時の僕は佐山さんに会うというだけで前日からかなり緊張しており、名刺交換する手も震えていたほど。子供の頃のヒーローというのは、幾つになっても記憶が色褪せないものなのだ。
従って、普段はお喋りの僕も佐山さんの前ではなかなかうまく話ができなかった。佐山さんはタイガーマスク時代の秘話や修斗の話、その他、何か難しい話を延々と語ってくれたが、僕は極度の緊張状態だったため、わけのわからない相槌を打っていたと思う。何度か「なるほど」って言うタイミングを間違えたほどだ。
しかし、そんな中、一つだけ強烈に覚えていることがある。
それは出てくる料理がすべて、ものの見事にまずかったことだ。
店内はとてもお洒落な雰囲気だったし、赤坂にニューオープンしたオリジナル無国籍料理という点を考えれば、そこそこ美味しくて当たり前って思うだろうが、実際は何だかよくわかんない奇天烈な味のオンパレード。鶏肉と野菜を謎のソースに絡めて甘辛く炒めたオリジナル料理や見たこともない不思議なキノコが大量に入った怪しいスープ、リゾットとチャーハンの中間みたいな微妙にベチャベチャした米みたいな米にたんまりとクセの強いチーズがかけられたミラクルライスなど、とにかくどれをとっても眉間に五本以上のシワが寄る、ある意味、秀逸な逆グルメの数々だったのだ。
しかし、目の前にはあの佐山サトルである。この店を予約したのは僕だし、天下の佐山さんに失礼があってはならない。ましてや、佐山さんが「てめえ、まずいよ!」って怒りだしたら最悪じゃないか。せめて、それだけは避けなければ……。
ってなわけで、僕は嗚咽を堪えながら文句の一つも言わず、出された珍料理をすべて腹におさめていった。あんまり佐山さんに食べさせてはいけないと思ったのもあるが、少なくとも僕が美味しそうに食べていれば、佐山さんも「ああ、これは俺の口にあわないだけで、彼には美味しい料理なんだ。だから、ここを予約してくれたのか」と好意的に受け止めてくれるはずである。
一方の佐山さんといえばメシがまずいことに気づいていたかどうかはわからないが、びっくりするぐらいサラダしか食べない。僕はかなり不安だったが、「どんどん食べてください」とは口が避けても言えず、ただ一人で何人分もの珍料理を食い尽くすのみ。他のスタッフさんも微妙な表情を浮かべながらサラダしか食べない。ちなみに、そのサラダは普通の生野菜にドレッシングがかかったシンプルなもので、「うまい」だの「まずい」だのジャッジできる領域じゃない。ただの草なんだもん。
結局、最後まで佐山さんとスタッフさんたちはサラダにしかまともに口をつけず、僕がほぼ一人で珍料理のフルコースをたいらげた。会話の内容はあまり覚えていないし、佐山さんに聞きたいことは腐るほどあったが、その半分も聞くことができなかった。完全に消化不良。なのに、胃の中だけはかなりの満腹感。せっかくの貴重な機会だというのに、店選びをミスったせいで台無しになってしまったわけだ。
けど、正直、普段から僕は食事に関して「うまい」だの「まずい」だの、何かと感想を口にしながら味わうのが好きじゃない。なんか、そういうのって下品な感じがするっていうか、メシに関してあれこれコメントすること自体が美しいとは思えないのだ。
だから、料理番組とかもあんまり好きじゃないし、テレビでタレントさんが「あの料理はどうこう」とか「食事は人生を豊かにする」とか「食の宝石箱や!」とか、そういうグルメコメントを発しているのを見ると、気持ち悪くなる。勿論、心の中で色んな感想を持ってしまうのは当然だけど、それを口に出すのは何だかなあって感じ。メシはどんなものでも黙って残さず食べるっていうのが美意識としては最も高い気がするのだ。
まあ、何はともあれ、あの時ばかりは僕がそういう偏屈な考えの持ち主で良かったなあって思う。もしかすると天下の佐山サトルも僕と同じことを思っていて、だから珍料理に文句を言わなかったのかな?
だとすると、ちょっと嬉しい。「痛い、痒い」を口にしないプロレスラー魂みたいなものを感じる。もっとも佐山さんはサラダしか食べなかったけど。
次回更新は、9月12日(金)です!お楽しみに!!









