先日、後楽園ホールに格闘技観戦に行ったら、ある顔見知りに声をかけられた。その人は身長150センチぐらいの小柄なオッサンで、とにかく鼻がアホみたいにデカい。しかも、天狗鼻や鷲鼻ではなく、巨大な円形を描いた極度のダンゴッ鼻。それ以外に名前や年齢、職業はまったく知らず、僕が後楽園ホールに行くたびにたまたま席が近くなるので、いつのまにか顔見知りになったというやつだ。見た目から察するに齢50歳ぐらいか。僕は彼のことを勝手に「鼻ダンゴ」と呼んでいる。(本人に言ったことはないが)
僕が鼻ダンゴの存在を認識したのは今から三年ほど前のことだ。DEEPの後楽園大会でたまたま席が隣になったのだが、とにかく試合中の鼻ダンゴは超うるさい! 一人で観戦しているくせに延々と喋りっぱなし。しかも、鼻ダンゴのスタンスは選手の応援というより、完全に試合の実況アナウンサーなのだ。
「さあ、序盤はスタンドの攻防。おっと、右飛び膝蹴りが顎を撃ち抜いた! そして、アームロック、オモプラッタ、腕十字を次々と仕掛ける! スピーディーな攻防です!」
ね、隣の席でこんなオナニー実況をずっと喋られたらめちゃくちゃうっとおしいでしょ? しかも、実況に加えて「今の技はうんちゃらかんちゃら……」って超マニアックな一人解説まで挟む始末。まさに一人二役の鼻ダンゴ芸を繰り広げているわけだ。
最初、僕は鼻ダンゴをマスコミ関係者なのかと思っていたが、大会が終わったら真っ直ぐ帰っていくし、どうやらただのファンのようだ。格闘技ファンの中には贔屓の選手に試合中、必死でアドバイスを送っているセコンド気取りの人もいるが、さすがに一人で実況と解説をこなしながら観戦している人は初めて見た。だから、僕はその日以来、鼻ダンゴに強烈な印象を持ってしまったのだ。
しかも、その後も様々な会場で鼻ダンゴを見かけた。修斗やパンクラス、DEEPで見かけるのは当たり前で、スマックガールなどの女子の会場にも出没。新木場1stRINGのガッツワールドでも見かけた時はさすがにびっくりしたものだ。(行ってる僕も僕だが)
で、ようやく先日のことである。あんまり何度も会うのですっかり顔見知りになり、「今日も会いましたね」などと軽い会話を交わすようになった僕と鼻ダンゴ。その日も鼻ダンゴは僕を見つけるなり、「兄ちゃん、久々だね!」と陽気に近づいてきて、たまたま空いていた僕の隣の席に遠慮なく腰を下ろしたのだ。
そして、試合が始まってからはいつもの鼻ダンゴ節が絶好調。実況のテンポはいつもより滑らかで、TKばりに詳細な技術解説も兼任。僕も調子に乗ってサダハルンバばりに「オー!!」だの「すごーい!!」だの激しいリアクションで応戦し、思わず興奮して「凄い試合ですね、鼻ダンゴさん!」って今まで禁句にしていた「鼻ダンゴ」って勝手な呼称を解禁しちゃったほど。しかし、鼻ダンゴはそんなことを気にする様子もなく、僕の好リアクションにかなり上機嫌。休憩時間中も延々、僕に打撃論を語りだし、「前蹴りでKOできることもあるんだよ」と誇らしげに前蹴りの見本を披露しだしたのだ。
以下、僕と鼻ダンゴの馬鹿な会話。(一部抜粋)
鼻「前蹴りってのは蹴る足と軸足の体重のかけ方のバランスが非常に大事なんだ」
僕「ほうほう」
鼻「比率でいうと7:3だな。その状態で体重移動が……(うんちゃらかんちゃら)」
僕「へえ、難しいもんですね」
鼻「馬鹿、難しいって思うから難しいんだよ! 頭で考えるな、心で感じろ!」
僕「なるほど。試合中は何も考えるなと?」
鼻「当たり前だ。格闘技は殺し合いなんだから!」
僕「えっ、さすがに殺しちゃダメでしょ?相手にも敬意を払わないと……」
鼻「馬鹿、相手のことなんか考えるな。板前が魚さばくときに魚の気持ちを考えるか?」
僕「いや、それとこれとはまったく別の気が……」
鼻「モノの例えだよ! ったく、これだから素人はダメなんだ」
僕「すいません。僕、実際に格闘技をやったことないからわかんないんですよ」
鼻「馬鹿、俺もやったことねえよ!!」
僕「え!!!!!」
そうなのだ。このオッサン、あれだけ偉そうに解説しておきながら、いざ聞いてみると格闘技経験ゼロ!! しかも、学生時代は囲碁将棋部だったんだって!!
僕は何だか騙された気分になった。いくらなんでも「前蹴りでKOできる」と豪語しておいて、囲碁将棋部はないだろう。脳内だけで強い人っているもんなんだなあ。
次回更新は、7月11日(金)です!お楽しみに!!









