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山田隆道のにわかでゴメンよ!

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第2回 「プロヲタ界のハードパンチャー!」

 今、僕はコミックバーズという月刊漫画誌に二本の連載を持っている。一本は「リサーチャー」というテレビ業界モノの漫画で、もう一本は「借金カノジョ」という恋愛コメディ。それぞれまったく異なるジャンルの作品だが、それでも一つの雑誌で二つの漫画を同時連載している漫画原作者ってかなり珍しいと思う。
 
 ただ、唯一どちらにも共通しているのが作中に必ず一人は格闘技好きかプロレス好きの人物が登場するところ。(喧嘩シーンで腕十字や三角締めは当たり前!)そして、そういうキャラは皆、ちょっと変った奴にしている。基本はヲタクで捻くれ者、加えて若干の妄想癖と変態的嗜好がある愛すべき馬鹿。つまり、僕の周りのプロ格好きにそういう変な奴が多かったため、自然とキャライメージができあがってしまっているのだ。

 で、中でも特に変っているのが吉田(仮)というプロレス馬鹿。職業は格闘技番組のAD兼ハードMである。
 とにかく彼は非常にミクロな嗜好を持つ稀有な男だ。ルックスは小泉孝太郎風の爽やかなイケメンなのだが、好きなプロレスラーはチャパリータASARI(元全女)。ジャガー横田の夫である木下医師に本気で嫉妬し、休みの日は武蔵小山の商店街に繰り出しては女子プロレスラーの盗撮に励むのが日課というプロヲタ界のハードパンチャーである。

 さらに吉田くんは女子レスラーのファンイベントにも参加し、わざわざ金を払ってまでレスラーに技をかけてもらっては、その度に言い知れぬ快感と興奮の世界に昇天していく生粋のハードMだ。今まで最も気持ち良かったのは伊藤薫のフットスタンプをトップロープからモロに食らったことらしく、とにかくどんな攻撃でもオールOK。裏拳も快感、ハイキックも快感、卍固めなんか勃起もの。不快だったのは新宿のサウナで黒人のオヤジに無理やりベロキスされ、肛門に指を突っ込まれたことぐらいしかないんだって。

 で、そんな吉田くんだけに今までの彼女も全員、ハードS。中学の頃の彼女からは喧嘩のたびに目潰し攻撃を受け、1.2の視力が0.1まで低下。さらに高校時代の彼女からはHのたびに乳首をマジ噛みされ、次の彼女からは無理やり右肩にカッターで「浮気厳禁」と彫られ、その次の彼女には別れ際に木刀で思いきり殴打され、その次の彼女からは焼肉をサンチュで巻いて食べないのがムカツクという理由だけで肋骨を三本も折られたらしい。
 
 正直、ここまで来ると完全に逆DVである。現在26歳の吉田くんだが、付き合った女の数だけの生傷が全身に刻印されており、デスマッチファイターみたいになっているのだ。

 だから、僕は思い切って吉田くんにデスマッチを勧めた。

「吉田くん、デスマッチとかに興味ないの?」

「いやあ、ないですね。だって、痛そうじゃないですか!」

 お前が言うな。目潰しや噛みつき、カッター、木刀などの攻撃をプライベートで受けてきたハードM星人が何を乙女みたいなことを言ってるんだ。

「俺、吉田くんだったら絶対デスマッチできると思うけどなあ。だって、今まで彼女に散々痛い目に遭わされてきたんでしょ? 正直、痛いのって快感なんでしょ?」

「いやあ、ぐふふふ……」

吉田くんは白い歯を見せながら満更でもなさそうな笑みを浮かべた。よく見ると全体的に歯が欠けている。しかも、前歯から右三本目はお亡くなりになっているではないか。

 その後、吉田くんはデスマッチとハードMの微妙なニュアンスの違いを力説した。

「デスマッチとハードMは全然別物なんですよ!なんていうのかなあ、そこに愛があるかないかで、痛みと興奮は変わってくるっていうかね」

「じゃあ、相手が好きな女だったらデスマッチやりたい?」

「……うーん、いや……やっぱ今は無理ですね」

「今はってどういうこと?」

「昔の僕ならありだったかもしれないけど、今はさすがにダメージの蓄積が多くて」

MにもMなりの苦労と勤続疲労があるようだ。

「それに昔と違って今の彼女はノーマルですしね。僕も丸くなりましたよ」

 吉田くんは冴えない中年親父が過去の武勇伝を語るように目を細めた。どうやら彼にとって逆DVはすっかり青春の1ページになっており、今の彼女からはたまに殴られることはあっても、そこまでのデスマッチ攻撃を受けることはなくなったらしいのだ。

「こないだも彼女と喧嘩したけど、ちょっと殴られたぐらいで後は口喧嘩ですもん」
 
 歯が欠けたイケメンが爽やかに笑った。僕は少しガッカリしながら、

「でも、俺は女に殴られたこと自体ないけどね。それもグーでしょ?」

 と、何気なく聞いた。すると、吉田くんは平然と即答。


「いや、蛍光灯です。」


「え……」

「まあ、でも木刀とかカッターに比べたらマシですよ。肋骨も折れてないし」

 一体なんなんだ、この男は!?完全に感覚が狂ってる!!蛍光灯が木刀やカッターよりマシって、それはお前だけのミクロな基準だろ!!!

 いやはや、恐るべきプロレス馬鹿である。いや、ただの馬鹿なのか。
 そう言えば、吉田くんは日本地図が描けない。いつも島が一つ足りない。とにかくADなんかやめて、さっさと大日本プロレスに入ったほうがいいと思う。


PROFILE

山田隆道(やまだ たかみち)



ちょっと格闘技が好きな漫画原作家。
そこまでマニアではないと言いつつも、渡辺啓とのユニット「あおい」として 女子総合格闘技をテーマにした漫画「彼女色の彼女」(幻冬舎)を発表。
他の主な漫画作品に「リサーチャー」「借金カノジョ」(いずれも幻冬舎)がある。
また、様々な雑誌で連載コラムも多数抱えており、シレっと格闘技について語ったりしている。

詳しい情報や近況は
オフィシャルブログで!




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